『 ごはん まだ〜〜〜? ― (3) ―  』

 

 

 

   カタン  ゴソゴソ ・・・・ ザ ザザザ

 

「 え〜〜と。  晩メシはぁ〜〜 酢豚 か 八宝菜 にするか〜

 野菜、あるな〜  豚肉 足して ・・・ 

 あ! タケノコの水煮、あるな〜〜  いれよ!

 これ好きなんだよなあ〜〜  うん うん いいぞ〜 」

 

ジョーは 冷凍庫 から 冷蔵庫 そして 食糧庫と順にアタマをつっこみ

あれこれ 取りだした。

 

「 うん ・・・ 豚肉 あるから 酢豚 か〜〜〜

 パイナップル あったかなあ?  しっかし すばるだけだぞ アレ 食うの。 

 昔っから思うんだけど なんで アレ、酢豚に入れるのかね ・・・ 」

 

タマネギ ニンジン ピーマン シイタケ そして タケノコ なんかを

まな板に並べて さあ どれから切るかな・・・と思案していると。

 

    ガタン −−−   た だいま ぁ〜〜〜〜

 

玄関が開いて すぴかの声が響いてきた。

「 お ご帰還かあ〜   ん??  なんかちょっと・・? 」

ジョーは エプロンで手を拭いつつ ・・・ 玄関に向かった。

 

「 ・・・ は あ〜〜〜   た だいま ぁ 」

 

すぴかが玄関の上がり框に どっすん ・・腰を下ろしいる。

足元には でっか〜〜〜い部活バッグを保冷バッグ が転がっていた。

本人は だ〜〜〜 っと脚を伸ばしスニーカーも脱がずにぼんやりしている。

 

     ・・・  へえ ・・・・

 

     いっつもの元気印、どうした?

     疲れた〜〜〜 ってのとは

     ちょっち 違うぞ?

 

ジョーは でもいつもと変わらない顔を娘に見せた。

 

「 お帰り すぴか。  ああ?  どした 」

「 ・・・ ただいま ・・・ あ〜〜〜〜あ ・・・ 」

「 なんだ? 」

「 うん  あの  さ。 うん ・・・

 ・・・・ あ〜〜 なんかさ ・・・

 めっちゃ甘いもん 食べたいなあ  激甘なのが。 」

「 へぇ〜〜 珍しいなあ すぴか 」

「 ・・ うん   自分でもびっくり 

 ねえ なんか ある? 晩御飯前だけど ・・・ 」

「 おし いいぞ〜〜 お父さんが作ってやる! 」

「 あのさ あまあ〜〜〜くして。

 お母さんのシフォン・ケーキや カトル・カー は

 美味しいけど 甘味 少ないんだ 」

「 任せとけって 」

「 マジ? 」

「 ああ。 まず 顔と手、洗ってこい 

「 ん!  あ  そっこ〜〜でシャワってくるね 」

「 おう。  ウマイの、作っとく。

 なに 飲む? アイス・コーヒーか 」

「 ・・・ ん〜〜 ・・・ あ オ・レ がいい。

 お母さんが飲んでるめちゃ甘いやつ 

「 りょう〜〜かい。  」

「 ん!  ・・・ かそくそ〜〜〜〜ち!!! 

すぴかは バス・ルームに消えた。

 

      え。  な なんだ アイツ??

 

聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたが ― 

ジョーも < 加速そ〜ち > で 準備を始めた。

 

   カチャカチャ  ざ ざ ざ〜〜

 

   ・・・ じゅ〜〜〜〜〜〜

 

すぴかのお父さんは しばらくガス台の前でごそごそやっていたが

― やがて キッチン中に 香ばしい匂いが漂い始めた。

 

「 あ いいにおい〜〜〜〜〜  」

すぴかが 濡れた髪をタオルで拭き拭きしつつ戻ってきた。

 

「 さあ〜〜〜 できたぞ!  全部 食べろよ すぴか 」

 

        ど どん。

 

テーブルの中央には  三段のホットケーキ ☆

天辺には バターがてんこ盛り そしてその下からは

だ〜〜〜〜〜っとシロップが滝みたいになって流れ落ち・・・

お皿の脇には バニラ・アイス が鎮座している。

 

「 ・・・ う わ 〜〜〜 おおう  」

「 どうぞ!  ほれ フォークでちぎって食べていいぞ 」

「 う  うん ・・・・ あ  お箸 ある? 」

「 ほい 」

「 サンキュ  いっただっきまあ〜〜す 」

 

   きゅ。  むぐむぐむぐ  きゅ ばくばくばく

 

すぴかは お箸でホット・ケーキを千切っては口に放り込み

千切っては放り込み ―  三段山 をたちまち崩してゆく。

 

「 ・・・ すげ〜〜 な〜〜 」

「 ん〜〜  むぐむぐ  ・・・ え なに? 」

「 いや ・・・ すぴかがこんなに甘いモノ、食べるとこって

 お父さん 初めてみたかもなあ 

「 ・・・ アタシもそう思う ・・・ あは ・・・ 」

 

    ことん。  すぴかはお箸を置いた。

 

ホット・ケーキの山 は 半分以下になっている。

 

「 ― なあ どした? 

 

ジョーは 何気ない風に彼の娘に聞いた。

「 ボロ負け。  あ〜〜〜 もう 落ち込む〜〜〜 」

「 練習試合 か 」

「 ウン ・・・ いつものライバル・チーム となんだけど さ ・・・ 

 ボロ負けした。 アタシの作戦ミスもあってさ 」

「 そうか ・・・  」

「 皆はさ  島村のせいじゃないよ〜〜 って庇ってくれたけど

 でも 根本的には ― 

 新人チームのキャプテンのアタシ、 見通しが甘かった んだ ・・・ 

「 うん そこまでもう分析 できたか  」

「 ―  ん ・・・ 」

「 わかった。 すぴかが 今日やることは 終わってるな 」

「 ・・・ え そう? 」

「 ああ。 あとは ― 甘いもん 爆食いして  爆睡しろ。

 明日になれば ― 新しい局面がみえてくる 

「 え ・・・ ホント? 」

「 ああ。 本当さ。  今晩 くよくよしても 意味なし 」

「 ・・・ あ  うん そっか・・・ そだね! 」

「 いいか。 今日の試合を思い出してベッドで輾転反側・・・

 なんて 一番あほらしいことだからな 」

「 ・・・ そうなんだ? 」

「 そうさ。  今晩 終わったコトをくよくよして ― なにになる?

 な〜〜んの解決にもならないぞ。

 疲れ果ててる時に 発展的な思考ができると思うか? 」

「 ― できない 」

「 だろ?  だ〜から。  今晩は  ころっと爆睡 だ 

「 ん。  わかった おと〜さん。 

 あは アタシ お腹いっぱいでさ  晩ご飯 ちょい無理かも 」

「 いいさ いいさ。  すぴかの分は冷凍しとく 」

「 ありがと〜〜 おと〜さん 」

「 アイスでも齧って  寝ろ。 」

「 ん。  そうするね  お休みなさ〜〜い 」

「 ああ お休み すぴか。 激甘ホット・ケーキも なかなかいいだろ? 」

「 実は さ。 味 ・・・ あんま よくわかんなかった 」

「 ・・・ え ・・・ あ〜 そっか ・・・ 」

「 じゃ ね〜〜 おと〜さん。  えへ ・・・ サンキュ 

「 おう 」

 

すぴかは 手をひらひら振って自分の部屋に引き上げていった。

 

「 ― あ 〜〜 ・・・ ムカシはさあ 

 おと〜さ〜〜〜ん ってすぐ抱き付いてきてくれたんだけど なあ 

 すぴか ・・・ 可愛いすぴか ・・・ 」

ジョーにとって すぴかはもう天から授かったタカラモノ なのだ。

「 ・・・ すぴかぁ 〜〜〜  ああ チビの頃って天使みたいだったなあ 

 すぴか ・・・ くるくる金色の巻き毛が可愛いくて・・・

 ちっちゃな手で おと〜しゃ〜〜ん って抱き付いてきて ・・・ 」

 

     バタン。   ただいま 〜〜〜

 

玄関のドアが ゆっくり閉まり落ち着いた声が聞こえた。

「 すばるか〜〜?  お帰り ! 

 

    トン トン トン  軽くも重くもない足音が近づいてきた。

 

「 ただいま 〜  ん?  なに 甘い匂い〜〜〜 」

「 すばる お帰り。  あ〜〜 ホット・ケーキ 作ったんだ。

 食べるか? 」

「 おう!  うわ  なに これ。 ・・・・ シロップ漬けだあ 」

「 あ それ すぴかが残したヤツだから。

 新しいの、焼いてやるぞ 」

「 あ いや〜〜  この シロップの湖(^^♪ 味見したい〜〜〜 」

「 ・・ へ え ・・・ いいけど な 」

「 へへへ〜〜〜  すぴか〜〜 もらうよぉ〜〜 」

 

すばるはお皿に残っていたホット・ケーキの 残骸 を一口 ― 

 

「 !  うわ・・っ なんだ これ!? 」

「 ? あ〜 だからすぴかのリクエストで作った オヤツ さ 

「 え  すぴか   これ 喰ったん? 」

「 ああ ばくばく食べたよ 」

「 うっそ〜〜〜〜  ねえ 父さん すぴか どっか悪いんじゃね?

 これ ・・・ 激甘じゃん ・・・  」

「 ― 負けたって 練習試合 」

「 ・・・ あ〜 バスケ部 ね〜〜  そ〜いや負けてたな  

 へえ  それにしても ―  ひえ〜〜〜  こんな甘いモンが

 この世に存在するなんて(^^♪ だな〜〜〜 

 夢みた〜〜〜い (*^_^*) コレはなになのかな〜〜 

「 パン・ケーキ さ 」

「 なあ 父さん〜〜  いや おと〜さま☆ 〜〜

 これ オレにも作って〜〜 」

「 ダメだ。  身体に悪い 」

「 え〜〜  じゃあ なんですぴかは喰ってい〜んだよ〜〜 」

「 これは すぴかの < 薬 > さ。 」

「 くすり?? 」

「 そうさ。  ― 勝負にポロ負けして底まで落ち込んだ時の 薬 」

「 へ〜〜え〜〜〜〜 」

「 これは お母さんのレシピさ。 」

「 ひえ〜〜〜〜〜〜 母さんの ???  ひえ〜〜〜〜 

「 そ。 昔 お父さんが底の底まで落ち込んでた時に

 お母さんが作ってくれたんだ  ・・・ 」

「 へ ええ・・・・・  はあ〜〜〜

 父さん達ってさ〜 ほっんとに 甘々〜〜〜なんだねえ 」

「 ふん  いいだろう〜〜???

 お父さんには 甘々な思い出を共有する恋人がいるんだぞ〜〜 

「 ・・・ コイビトって。 オレらの か〜さん じゃん?

 結婚何年目さ?  ・・・ っとに〜〜〜 

「  あ 羨ましいんだろ〜〜 ? 

「 ― ふん。  言っとくけど。

 そのコイビトは オレらと血の繋がったヒトなんだぜ?

 と〜さんとは 他人 だけどぉ〜〜〜 

「 ・・・ コイツぅ〜〜〜 」

「 あ〜〜〜 腹減ったぁ〜〜〜  ごはん まだ? 」

「 ― 今から 作る 」

「 あ 食えるもん、頼むね〜〜  オレ 風呂 入ってくっからさ〜〜〜

 今日は めちゃ疲れて 料理って気分じゃなくてさ〜〜〜

 じゃね〜〜〜 ヨロシク〜〜  おと〜さまぁ♪ 」

 

すばるも 手をひらひら〜〜〜振ってキッチンを出ていった。

 

「 ! なんだよ アイツ〜〜〜〜〜 

 ・・・ ふん。  フランは ぼくだけの コイビト なんだぞ 」

 

    ふん!  お前らに な〜〜にがわかるってんだ〜〜

 

宙に向かって悪態?を吐きつつ ジョーは野菜を切り始めた。

 

 トントントン   タタタタ ・・・・  

 

ニンジン ピーマン シイタケ タマネギ 長ネギもついでに切って

あとは ニンニク 生姜。  おっと忘れてた、タケノコの水煮!

 ・・・ 色とりどりの山ができてゆく。

 

「 美味そうだなあ  ・・・ふふふ〜〜ん♪ 

 ! 食えるモン 作ってね だと??  すばるのヤツ〜〜〜〜

 ふん! 今日は パイナップル なしだ! 」

 

一人で < 思い出し怒り > をし 解凍できた豚肉の薄切りを切りわけ 

調味料を合わせて さあて これから中華鍋で仕上げるか・・・と

ぴかぴかに磨き上げられている中華鍋を ガス台に置いた。

 

「 ・・・ あ〜 あの時 フランってばコレで

 パンケーキ、作ってくれたんだよなあ ・・・ うん 」

 

ジョーの手は止まり ・・・・

視線はキッチンの窓から ― 遠いあの日に飛んでゆく。

 

 

 

― なんとかミッションを終結させ サイボーグ達は撤退した。

 

・・・ そう <撤退> だ。 凱旋ではなく 終了による引き上げ でもない。

そもそも初戦で ボロ負け。 なんとか立て直したが ・・・

怪我人が出なかったのが幸い、という有様でなんとか終結、

彼らは撤退したのだ。

 

   バタン。    ゴッ −−−−−−− !!!

 

ジョーが殿 ( しんがり ) で ハッチからコクピットに飛び降りると 

ほぼ同時に ドルフィン号は発進 − すぐに音速の壁を超えた。

メイン・パイロット席で赤毛が 眼を血走らせ操縦桿を握っている。

 

( ・・・ あ  ・・・ さすが! ジェット ありがとう! )

 

     ズ ・・・  カチャ !

 

鋼鉄の手がジョーを座席に引っ張り込みシートベルトで固定した。

 

( うわわ ・・・ あ〜〜  アルベルト・・・ ありがと )

 

     ゴ −−−−−−−−   !!!!

 

全員が Gを感じつつほっとしていた。

とにかく 今はドルフィン号に身を委ねていられる ・・・ 皆で。

 

「 ・・・っと。 自動操縦にチェンジ。 オレ 寝る 」

ジェットが さっさとコクピットを出ていった。

「 ― レスト・タイム。  損傷 ないな? 」

アルベルトは コンソール盤前から全員を見回した。

 

   お〜〜   ああ 大丈夫だよ  むう〜  ごはん 作りまっさ!

 

コクピット内の雰囲気は イッキに < いつもの >ものに変わった。

 

「 ・・・・・・ 」

ジョーは まだサブ・パイロット席に座り込んでいた。

視線はじっと計器類に向けられ 頭上のモニターでも今回のデータを

確認している ―  が。

 

     ・・・ったく!

     

     さ・・・・いていなヤツだな 009!

     いや シマムラ・ジョー !!!

 

     お前の見通しの甘さが原因で

     全滅するところだったんだぞ??

 

     有能で寛容な仲間達に土下座でもするんだな

 

     ・・・ って 通じないか ・・・

 

     あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 !!!

  

     とにかく  ぼくは最低なヤツだっ !!!

 

心の声は もうドルフィン号全体に大反響 ・・・ しているみたいだった。

もちろん 聞こえるのは順行しているエンジン音だけ だが。

彼の後ろ姿から  仲間たちはちゃんと彼の本音を聞きとり

彼のドツボ以下にふか〜〜〜〜く落ち込んでいる様子を理解していた。

 

 ― 気が付けば コクピットの中は無人だった。

 

009の 溜息だけが漂う重苦しい空間になっていた。

 

    トントントン   ふわ〜〜〜ん 

 

  軽い足音で甘い香りがやってきた。

 

「 ・・・・ ? 」

「 ジョー。  これ 食べて 」

「 ・・・ へ? 」

「 パンケーキ 焼いたの。  いま 食べて 」

「 あ ちょっと食欲なくて 」

「 食べて。 とにかく 食べて。 ココで 」

「 ・・・え   あ    うん 」

フランソワーズは フォークを彼の手に握らせると

まだ湯気の漂うお皿を 押し付けた。

「 食べて 」

「 ・・・ ん ・・・ 」

 

   きゅ。 フォークで千切って口に押し込む。

 

「  ! ・・・ う  わぁ  甘あ〜〜〜 」

 

目を白黒させたが ジョーはその一口をしっかりと呑み込んだ。

「 ん ・・・  あ おいしい よ 」

「 うふふ  そう?  ねえ 全部たべて。

 バターとシロップをいっぱい掛けたパン・ケーキ、好きって

 言ってたでしょう?  ほら コドモの頃、憧れてたって 」

「 ・・・ あ そう だったかな 」

「 ちゃんと覚えているわよ わたし。 

「 そっか ・・・  うん  美味しいよ 」

「 よかったわ  今ね 大人にお願いして

 大急ぎで厨房を使わせてもらったの。 」

「 ・・・ そっか  ありがとう ・・・ 

 ごちそうさまでした。  美味しかったです。 」

ジョーは カラになった皿をそっとコンソール盤の端に置いた。

 

「 全部食べた?   そしたらね しばらく眠って。

 ほ〜〜ら アナタは 眠くなあ〜〜るぅ〜〜〜〜 

フランソワーズは 彼の目の前で手をひらひら 揺らす。

「 ・・・え  それって なに 」

「 ほ〜〜ら 眠くなあ〜る〜〜 って催眠術よ〜〜〜 」

「 え ・・・  あ でもちょっと眠い かな 」

「 でしょ?  ほらほら キャビンで寝てきて。

 お家に着いたら ちゃんと起こしてあげます 」

「 いや でも  今回の検証と反省を ― 」

 

    ノン。  ―  彼女はきっぱりと言った。

 

「 へ? 」

「 いい ジョー? 」

彼女は 彼の正面に周り じっと顔を見つめた。

「 あのね。  落ち込んだ時は 甘あ〜〜いモノ、食べて 寝るの。

 明日になれば 新しい局面が見えるわ。 」

「 え ・・・ 」

「 とにかく  わたし達、皆 無事なの! 

 さあ 寝て 009。 そして 明日からまた前を向くの 

 

碧い瞳が チカラ強くジョーの背を押している。

 

「 ― わかった。  ・・・ありがとう フランソワーズ! 」

「 うふふ どういたしまして。 

 お家に帰ったら 美味し〜〜〜いケーキ・ショップ 付き合ってね? 」

「 喜んで〜〜    ホント ありがと ・・・ 」

ジョーは おずおずと彼女に向かって手を差し出した。

 

    きゅ。  白い手がしっかりと握りかえす。

 

「 ・・・ お休み なさい 」

「 おやすみなさい ジョー。 」

 

 

―  そう  あの時 ジョーははっきりと心に刻みつけた。

 

        彼女が  好きだ !  

 

そして ≪ 落ち込んだ時には 激甘いモノ と 爆睡  ≫ と。

 

 

 

 

   ジャ −−−− !!!!

 

中華鍋の中で 野菜たちが踊り始めた。

「 ふんふん〜〜〜  いいぞぉ〜〜〜  ってここに肉を 」

「 すと〜〜っぷ。 」

「 おわ!?!?   な なんだ〜〜  」

突然 ジョーの菜箸を持つ手が 押さえられた。

「 す すばる??  いいきなりなんだ〜〜

 炒めもの、してるんだぞ 危ない ! 」

「 だ〜から。  オレに菜箸 貸して。 

「 疲れて 料理気分じゃない って言ってたのは誰だあ?  」

「 ま いいじゃん   もらうよ、菜箸。 」

すばるは 父親の手から菜箸をとりあげると さささ ・・っと

野菜類を片寄せた。

「 あ〜〜 でっかい皿 もってきて 」

「 あ  うん ・・・ これでいいかい 」

「 あ〜。  あのね 野菜と肉を一緒にするのはラスト。

 ざっと火が通ったら野菜類は ざざっと引き上げて。 

 次に そこに肉投入だよ。 

 うん 薄切り肉だから 広げてさささっと片栗粉 まぶして。

 野菜のうま味を ず〜〜んと肉に吸わせるんだ 」

「 あ ふう〜〜〜ん  なるほど ・・・ 」

「 で〜〜〜 ちゃっと肉に火 通して。 」

「 ・・・お いい匂いじゃんか 」

「 だろ〜 ?  やあ 火、通ったかな〜〜〜 

 そんじゃ  あ 調味料と片栗粉は溶いてある? 」

「 おう。 これだ 」

「 サンキュ ・・・ これにな〜〜 顆粒中華出汁 をちょいと足して

 イッキに投入〜〜〜   全員まぜまぜまぜ〜〜〜〜  」

「 あ〜ここにいれるんだ? 」

「 そ。  そんでもって。  味見・・・ ん 〜〜〜んま!

     ざ ざ ざ ざ 〜〜〜〜 っと  ほら とろみもついて

 できあがり ♪ 」

 

    トン。  すばるは 中華鍋を ガス台の上、布巾の上に置いた。

 

「 ふ〜〜〜〜  いいにおい だなあ〜〜〜 

「 さ。  メシにしようぜ   すぴかは? 」

「 あ 寝てる。  爆睡してる 寝かせておいてやれよ

「 へえ 〜〜〜 じゃ と〜さんと二人飯 するか 

「 御飯と味噌汁、よそっておくから。

 すばる、髪、ちゃんと拭いてこいよ?  まだ濡れてるぞ 」

「 お〜〜っとぉ ・・・ へいへい 」

すばるは タオルを取りに駆けていった。

 

「「 いっただっきま〜〜す  」」

広いテーブルに 二人で向き合って  に〜〜〜っと笑った。

 

    むぐむぐむぐ〜〜   ばくばくばく〜〜〜

 

「 ウマイなあ〜〜 うん! なあ すばる? 」

「 ふぁ ふぁ ・・・ 熱々〜〜 でいいね! 」

息子と二人だけで食べる 晩ご飯 ―  なかなかいい感じ。

ジョーは じ〜〜んわりお腹の底から温かい気分になってきた。

 

「 ! と〜さん! なんで パイナップル 入ってね〜の〜〜?? 」

 

   ― これが すばるの感想でした。

 

 

 さて 数日後 ・・・

 

   ガッタン ―  玄関のドアが重く開いた。

 

「 あ?  お帰り〜〜 すばる か? 」

ジョーは キッチンから声をかけた。

「 ん 〜〜   ・・・ただいま ・・・ 」

 

   どたん どたん  ジョーの息子がゆっくりとキッチンに顔をだす。

 

「 ・・・ と〜さん  ごはん  まだ・・・? 」

「 あ?  どうした? 」

「 ・・・ べつに ・・・ あ  うん ちょっと疲れたかな 〜〜 」

「 ま 中坊は忙しいからなあ   すぴかは? 」

「 すぴかはさ 次代キャプテン だからさ〜  部活! 」

「 あ そうだったな それじゃ 晩飯 なにがいい? 」

「 あれ? か〜さん 今日 帰ってくんだよね? 」

「 夜な。 遅いはずだよ 」

「 ・・・ そっか  あれ じ〜さまもだよね? 」

「 うん  空港から車 頼むって。  迎えにゆきますっていったのに 」

「 ふうん 」

「 お前たちに 迷惑をかけるな ってさ 」

「 だはは じ〜さま わかってるぅ〜〜 

 

     ただいまあ〜〜〜〜  お腹 すいたぁ〜〜〜〜〜

 

玄関で いつもの・すぴかの声 が聞こえてきた。

「 お 腹ペコ嬢がお帰りか〜〜 」

「 オレも〜〜〜   オレも腹ペコ〜〜〜 」

 

「 よ〜し 待ってろ。  今晩はお父さんのぼりゅーむメシ だ! 」

 

ジョーの ぼりゅ〜むごはん とは  ―  三色丼

 

山ほどの 鶏肉のソボロ  炒り卵 そして 茹でシラス。

これが こ〜〜〜んもり丼御飯に盛り上がっている。

 

鶏ソボロの上には紅生姜  炒り卵は甘く シラスはさっと茹でて塩・コショウにオリーブオイル。  

それぞれ違う味がひしめきあっているのだ。

「 うわ〜〜〜 すっご〜〜〜 」

「 だっぴゃ〜〜 うまそ〜〜〜 」

「 こらこら。 食事の前は ―  」

「 へいへい  みなさん 背筋をのばしてください。 手を合わせましょう 」

「「 は〜い 給食委員さん 」」

「 で〜は かんしゃのここをこめて  いただきます ! 」

 

   「「  ! ・・・うっま〜〜〜〜〜!!!  」

 

絶賛の声がひびき その後しばらくは静謐となった。

( 島村さんち の人々は 咀嚼の音などたてない! )

 

「 ・・・ これ さ  ウマすぎ〜〜〜〜 おと〜さん 」

「 うぴゃ〜〜  炒り卵 甘くてさいこ〜〜〜 と〜さん 」

「 ふふふ  そっか そっか〜〜 」

中学生のムスメとムスコに大絶賛を浴び 

( 彼らは  晩ご飯 を絶賛したのだけれど )  

ジョーは に〜〜〜んまり・・・ 鼻 高々〜〜 だ。

 

  「 あら??  なになに???  

       わたしも食べたいわあ〜〜〜〜〜 」

 

突然 食卓に ぱあ〜〜〜っと明るい声が響いた。

「 !? あれ  フラン〜〜〜〜 ?? 」

「 あ お母さん?? お帰り〜〜 」

「 あれ?? 早いね 」

「 やれ ただいま   おお いい匂いじゃなあ〜〜 」

「「 おじいちゃま〜〜〜 お帰りなさい !! 」」

チビ達は 箸を放りだし 博士の側にとんでいった。

「 荷物〜〜 かして! 」

「 おじいちゃま〜〜 ごはんにする? お風呂がさき? 」

「  ―  ありがとよ  まあ まず 顔と手を洗ってくるか 」

「 それがいいよ 」

すばるは ぱたぱた・・・ 博士についていった。

「 おじ〜ちゃま〜〜 熱いお茶 淹れておくね〜〜 

すぴかが お茶の支度を始めた。

 

「 フラン〜〜〜  嬉しいな こんなに早く〜〜 」

ジョーは もう細君の側にぺったりだ。

「 ふふふ・・・ 博士がね 空港で待っててくださって。

 一緒にクルマで帰ってきたの〜〜〜 」

「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ 

 あのマダムに連絡して移動公演の詳しい予定を伺ってな。

 ワシの帰国の便とあまりかわらん時間じゃったので な〜〜 」

「 あ それで こんなに早く帰ってこれたんだね 」

「 そうなの〜〜   あ〜〜〜 お腹へったぁ〜〜 

 ねえ その美味しそうなご飯 わたしも食べたい〜〜〜 」

「 ああ ワシも頂きたいぞ 」

「 よっしゃあ〜〜〜 」

 

    ― 三色丼 は 大好評。     炊飯器はほぼ空になった。

 

 

「 おか〜さ〜〜ん  ごはん まだ〜〜〜 ? 」

「 ごはん まだ〜〜〜?  おと〜さん 」

 

         ― それは  島村さんち の幸せの音 ・・・

 

*********************          Fin.       ************************

Last updated : 05.23.2023.          back      /      index

 

*************    ひと言   ************

例によってなんてことないハナシでした <m(__)m>

ジョー君の 幸せの記録  ・・・ かな ☆